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【S】―エス―01

第32章 原点

 ◇2


 ――201X年 8月4日。


 再びドイツ南西部――スイス国境付近。


「本当は後悔してるんじゃないの?」


 黒い軍用ヘリの中、咲羅と向かい合わせに座ったリンが片肘をつき問う。


「してないよ。別に……」


 抑揚なく答え、茶色い髪に表情を隠したまま咲羅は窓の外、眼下に広がる渓谷を見下ろす。


「……でも、どうして分かったの?」


 ふと、思いついたように窓から視線を逸らし問いかける咲羅。


「何が?」


 リンは咲羅の言わんとすることを分かっていながら、あえて訊き返したのだ。


「僕たちがあそこにいるって――」


「そうね……」


 リンは以前、ハロルドから聞いた話を思い出し、咲羅に視線を送る。


「アナタの体の中に仕込まれた、追跡装置のお陰かしら?」


 そう言って右手で咲羅を指し示した。無論、リン自身も、それがどこにあるかまでは聞かされていない。


 咲羅は目を丸くし、両手で身体中を探る。それを見てリンはくすくすと笑う。
 

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