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【S】―エス―01

第32章 原点

 

 ――ネッカー渓谷、地下。


 明るい照明のついた通路を抜け、やって来たのは、もう何度訪れただろう真っ白な広い部屋。彼が、初めて別の『自分』を殺した部屋だ。


 その広い部屋を通り、左奥の固く閉ざされた扉へ。グレーに塗装された金属製の扉を前に、リンはぴたりと足を止める。


「この向こうに、何があるの?」


 ずっと気になりはしていた。だがそれを知ることが怖く、訊けずにいたのだ。


「アナタたちの原点よ」


 眼前に立ちはだかる無機質な扉を真っ直ぐ見据え、端的に答える。やがてオートロックに何か暗証番号のようなものを打ち込み、カードキーを通す。


 すると、ロック解除の機械的な音を上げ、隙間から冷気を吐き出し重たい扉が開く。
 

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