
【S】―エス―01
第32章 原点
咲羅もまたそれに呼応するかのように『刹那』のもとへ歩み寄り、冷たいガラス張りのそれにぴたりと頬をつける。
「やっと、会えたね……」
固く閉ざされたあの扉を見る度に咲羅は心のどこかで、きっと自分の知らない『何か』が眠っているのだと、そう思い続けていた。
「咲羅、これを」
後方にいたリンが、そう言い一本の試験管を差し出す。
中に入ったその液体はライトに照らされ、淡いピンク色のような薄紫色のような実に不思議な色合いをしていた。
「これは?」
咲羅は差し出されたそれを受け取り、紫からピンク、そして緑……と不思議に変化する液体を見つめながら小首を傾げ訊ねる。
「今までの薬品に改良を加えたものよ。アナタの潜在的な能力をより引き出すわ。もしアナタが望めば、今以上の力を――」
咲羅には、そんなリンの声すら聞こえていない。
もし望んで力を得、その後どうなるかなど知ったこではなかった。今の咲羅の中では、彼を想って向けられた刹那たちの笑顔ですら醜く歪んで見えたのだ。
手にした試験管の中のにわかな光を帯び多様に変化する色鮮やかな薬品をじっと見据え、躊躇いなく一気に喉へ流し込んだ。
「やっと、会えたね……」
固く閉ざされたあの扉を見る度に咲羅は心のどこかで、きっと自分の知らない『何か』が眠っているのだと、そう思い続けていた。
「咲羅、これを」
後方にいたリンが、そう言い一本の試験管を差し出す。
中に入ったその液体はライトに照らされ、淡いピンク色のような薄紫色のような実に不思議な色合いをしていた。
「これは?」
咲羅は差し出されたそれを受け取り、紫からピンク、そして緑……と不思議に変化する液体を見つめながら小首を傾げ訊ねる。
「今までの薬品に改良を加えたものよ。アナタの潜在的な能力をより引き出すわ。もしアナタが望めば、今以上の力を――」
咲羅には、そんなリンの声すら聞こえていない。
もし望んで力を得、その後どうなるかなど知ったこではなかった。今の咲羅の中では、彼を想って向けられた刹那たちの笑顔ですら醜く歪んで見えたのだ。
手にした試験管の中のにわかな光を帯び多様に変化する色鮮やかな薬品をじっと見据え、躊躇いなく一気に喉へ流し込んだ。
