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【S】―エス―01

第33章 計画

 
 ――12年前。


 屋敷の前に、1台の黒塗りの車が停まる。季節は遠くの山が赤く色づいていた……恐らく秋だろう。


「ねぇ、誰か来たよ」


「誰かな?」


 庭先に天高く聳(そび)える楓の木。その蔭に隠れ、出てきた人物の様子を窺い見る。


「茜ちゃん、知ってる人?」


 だが彼女は栗色の背中まで隠す長い髪の毛を揺らし、知らないと大きく首を横に振った。


 最後に現れた金髪の男だけは木の蔭へ隠れる2人に気づいたのか、ちらりとこちらを見やる。


 眼鏡の奥、獲物を捕らえるように見据える碧眼。


 ……厭(いや)な目だった。


 一瞬、その目と自分の目が合ったような気がして、背筋へ走る悪寒にぶるりと肩を竦め、身を縮こまらせた。



 視界いっぱいに見慣れぬ天井が広がる。


 夢だと分かり、手の甲で視界を覆いひとつ息をつく。瞬矢は休暇室で横になっていた。


(ったく……。やなもん、思い出しちまったな……)


 ずっと忘れていた記憶。よもやあれが……、あの人物こそが『ハロルド』だったのだろうか。


 あの時、男の姿が屋敷の中へ消えてゆくまで悪寒と共になぜだか目が離せなかった。
 

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