
【S】―エス―01
第4章 あかねいろ
――静寂。静寂の中に映る投影。
まるで時間を逆行し、自分がその場に居合わせていると錯覚してしまうほどリアルに、瞬矢の網膜を通してその時の光景を脳内にまざまざと映し出した。
――――
橋げたの袂(たもと)から、そろりと姿を現した人物。
白っぽいコートを着た人物は、月夜に映える儚く淡い桜の花びらのような髪を揺らし、目の前の男を視界に捉えると頬を緩ませくすりと笑う。
『彼』の形のよい唇は、ゆっくりと言葉を紡いでゆく。
「暗い闇の中で、影は生き続ける」
すうっと男に向け伸ばされた指先から静電気のような火花が走る。途端に火柱が上がり、視界は炎で埋め尽くされた。
――――
「――っ!」
急に現実へと引き戻されたせいかはたまた漂う臭いのせいか、瞬矢は耐えきれず袖口で鼻と口を押さえ、ふらふらとよろめきながらその場を離れる。
1人おざなりにした茜の、背後で自分を呼ぶその声すら、今はどこか遠くに聞こえた。
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