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【S】―エス―01

第33章 計画

 
「それまでどうだい? 僕と……」


 行く手を塞ぐ彼の左手はするりとリンの頬を準え、襟元から覗く金色のチェーンに触れる。


 ハロルドから視線を逸らすと俯きがちに半目し、にわかに考える素振りを窺わせた。


「……そうね」


 ぽつりと答えたリンは、ハロルドとの距離を空けるように肩を手で押して、顔を近づけ覗き込む。


 高い目線からこちらを見つめる彼の青い瞳は、5年前の面影を滲ませていた。


 ゆっくりと辿る視線が、襟元で締められた紺色のネクタイに留まる。久しく見ることがなくなった、懐かしい色。


 図らずも目に留まったそれに、表情が綻ぶ。


「今のアナタなら――」


 笑みを湛えたまま、目と鼻の先で囁き軽く唇を重ねる。


 胸元に身を預け紺色のネクタイに指先を滑らせながら、リンは初めて彼に全てを委ねた時のことを思い出し、ほうっと息をつく。


(ハル……)


 彼が、このままの彼でいてくれたなら。


 もうあの頃の純真無垢はなかったが、今一度、当時のような気持ちでいられるのならと。




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