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【S】―エス―01

第34章 夢の断片

 
 ――11日、午後2時03分。ミュンヘン中央駅。


 駅の正面玄関を抜け駐車場がある中を横切り、通りへ行く道中、2人の姿を視界に収めながら刹那は思考を巡らす。


 機内で見た夢のことはまだ黙っておこう、そう決意を固めた矢先のこと。


「刹那、お前も見たんだろ?」


 瞬矢のゆるりとした歩調はやがて立ち止まり、声を潜めそう投げかけてきた。それにより、刹那は瞬矢と茜の間に立つ形となる。


 刹那はちらりと背後の茜を捉え、少しばかり天を仰ぎ笑みを貼り付け答えた。


「何を?」


 知らぬ存ぜぬと事もなげに嘯(うそぶ)いた刹那の返答に対し、すうっと目を細め、隠すなと言わんばかりの視線を向ける。


「何を、って……。咲羅の夢に決まってるだろ」


 尚も自分たちよりも数歩先を行く茜を気にしつつ、「まさか」と瞬矢の言葉を一笑に伏す。


 だが彼は視線の先にあるものを捉え、言い澱む理由をなんとなく理解したのか、更に声を潜めこう続ける。


「……茜か。安心しろ、あいつにはまだ言わない」
 

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