
【S】―エス―01
第34章 夢の断片
◇3
――同日、ネッカー渓谷のドルト家が所有する古城。
地下に研究施設を完備するその城の広間で、上述された場所へ向かおうとしたリンはハロルドに呼び止められる。
とうの昔に目覚めているだろうS‐145――つまるところ『咲羅』の姿が今だに窺えず、業を煮やしたのだ。
忙しく早足で歩み寄るハロルド。彼がリンの右腕を掴み上げたその時、澄んだ声色が広間一帯に響く。
「ここだよ」
次いで背後から差す長く伸びたひとつの影が、2人を暗く覆った。
人物の周囲に漂う、圧倒的な威圧感。だがリンにはそれが誰であるのかすぐに理解できた。
「そんな、まさかっ……!?」
それはハロルドにしても例外ではないだろう。現に、突如として目の前へ現れた人物に掴んでいたリンの手を放し、おののき後ずさっているのだから。
「咲羅?」
解放されたリンは右腕を押さえながら日の光を背に立つ人影を見上げ、確認するかのようにぽつり呟く。
『咲羅』とおぼしきその人物は一瞬リンに視線を送り、再びハロルドに向き直ると地を蹴り、空中でくるりと回転し、踊り場から広間へ左手をつき着地した。
――同日、ネッカー渓谷のドルト家が所有する古城。
地下に研究施設を完備するその城の広間で、上述された場所へ向かおうとしたリンはハロルドに呼び止められる。
とうの昔に目覚めているだろうS‐145――つまるところ『咲羅』の姿が今だに窺えず、業を煮やしたのだ。
忙しく早足で歩み寄るハロルド。彼がリンの右腕を掴み上げたその時、澄んだ声色が広間一帯に響く。
「ここだよ」
次いで背後から差す長く伸びたひとつの影が、2人を暗く覆った。
人物の周囲に漂う、圧倒的な威圧感。だがリンにはそれが誰であるのかすぐに理解できた。
「そんな、まさかっ……!?」
それはハロルドにしても例外ではないだろう。現に、突如として目の前へ現れた人物に掴んでいたリンの手を放し、おののき後ずさっているのだから。
「咲羅?」
解放されたリンは右腕を押さえながら日の光を背に立つ人影を見上げ、確認するかのようにぽつり呟く。
『咲羅』とおぼしきその人物は一瞬リンに視線を送り、再びハロルドに向き直ると地を蹴り、空中でくるりと回転し、踊り場から広間へ左手をつき着地した。
