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【S】―エス―01

第34章 夢の断片

 着地点の陥没が、その威力を物語る。前方を見据えすっくと立ち上がると、素足のままゆっくりハロルドの眼前へ歩み出る。


 ――ひた、ひた。素足が石の床を踏み締める音は冷たく、カウントダウンするかのように刻む。


 逆光で窺えなかったが、茶色い髪から時折覗く瞳ばかり淡い緑色に染まっていた。漂う雰囲気こそ違えど、それは紛れもなく『咲羅』であった。


 今、この状況であれを使うべきか否か。考えた末に白衣の裏側から取り出した銃口を向ける。


(あれは……!?)


 見覚えのある青と銀の弾薬に、リンはごくり、息を呑む。信管に込められた弾薬には、能力を一時的にだが鎮静化させる成分があった。


 目測を定めて引き金を引こうとしたその時、


「無駄だよ」


 ひと瞬きでそれは弾かれ、放たれた殺気にも近い思念にバランスを崩し、膝から崩れ落ちる。


 地に両手をつき突っ伏したまま睨み上げているハロルドの右手を、咲羅は自身の右足で思い切り踏みつけた。


 右手は床にめり込み、辺りに響く鈍い音。咲羅は一瞬目を細め、再びぎょろりと見開くと平坦な口調でこう告げる。


「もう、君の言いなりにはならないよ。ハロルド」
 

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