
【S】―エス―01
第34章 夢の断片
その半面、地下施設へ続く入り口の側で、地べたにへたり込むリンには一瞥もくれない。
咲羅にとって、彼女は全くの対象外なのだろう。
突き当たりの壁には、ドイツ全域の州や街の名前が細部まで詳しく記載された地図が貼られていた。
咲羅は立ち止まり、一度その地図に視線を送る。
「んーと、ここから一番近いのは――」
右へ左へ視線を游がせ、「決めた」と言わんばかりににこりと笑んだ。
「よし!」
一言そう発し、左脇の幅2メートルほどはある階段を駆け上がる。
「咲羅!」
このまま彼を行かせてはいけないと思ったリンは、石の床にへたり込んだ状態で身を乗り出し咲羅を呼び止める。
彼は階段を駆け上がる途中でぴたりと足を止め、初めてリンに意識を向けた。
「言っとくけど、僕は『S‐145』でも『咲羅』でもないから」
「なら僕は誰なんだろう?」そう口元に手を当て自問自答を繰り返し、やがて――
「まぁ、名前なんてどうでもいいか。好きに呼べばいいよ」
開き直ったかのようにそう言うと、前へ向き直り上階を見据える。そして窓を突き破り、研究施設のある城の外へと飛び出していった。
咲羅にとって、彼女は全くの対象外なのだろう。
突き当たりの壁には、ドイツ全域の州や街の名前が細部まで詳しく記載された地図が貼られていた。
咲羅は立ち止まり、一度その地図に視線を送る。
「んーと、ここから一番近いのは――」
右へ左へ視線を游がせ、「決めた」と言わんばかりににこりと笑んだ。
「よし!」
一言そう発し、左脇の幅2メートルほどはある階段を駆け上がる。
「咲羅!」
このまま彼を行かせてはいけないと思ったリンは、石の床にへたり込んだ状態で身を乗り出し咲羅を呼び止める。
彼は階段を駆け上がる途中でぴたりと足を止め、初めてリンに意識を向けた。
「言っとくけど、僕は『S‐145』でも『咲羅』でもないから」
「なら僕は誰なんだろう?」そう口元に手を当て自問自答を繰り返し、やがて――
「まぁ、名前なんてどうでもいいか。好きに呼べばいいよ」
開き直ったかのようにそう言うと、前へ向き直り上階を見据える。そして窓を突き破り、研究施設のある城の外へと飛び出していった。
