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【S】―エス―01

第34章 夢の断片

 ◇4


 1時間ほど経過し、時刻は午後3時05分。


 渓谷沿いの山道を駆け抜け、とある街の中心へとやって来た咲羅。大通りには人々が行き交い、時折、自動車のクラクションが鳴り響く。


 ふと左足の裏に走る違和感。


「?」


 泥まみれになった自身の足を見て無表情に……されど不思議そうに、こてんと首を傾げる。


 恐らく、あの施設がある城の窓から出た際に負ったのだろう。左の足の裏に小さなガラス片が突き刺さり、わずかに流血していた。


 前屈みに左足に刺さったそれを左手で摘まみ、躊躇(ためら)いなく、思い切り引き抜く。


 どくり、脈打ち流血した後、傷口はみるみるうちに修復再生された。


 手にしたガラス片の赤く彩る尖端を見つめ、その時、咲羅は初めて靴という物の必要性とその役割を知る。


(そっか。靴履いてたら、怪我しないんだ)


 足の裏に走る違和感もなくなり、再び顔を上げて通りを見渡す。


 するとそこに自分と身の丈、年の頃を同じくする1人の少年を見つけ、咲羅は口の端を歪ませ笑った。
 

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