
【S】―エス―01
第34章 夢の断片
――午後3時40分。
すぐ側に駅が窺える、鼠色の建物の屋上。その縁に腰かけ投げ出した両足を宙にぶらつかせ、笑みを溢す咲羅の姿があった。
つい先ほどまで泥まみれだった咲羅の素足を、真っ白な運動靴が包む。
「退屈だなぁー……」
(みんな、飽きないのかな?)
決められたルーチンワークの中で行き交う人々を見下ろしながら、咲羅はそんなことを考え、独りごちた。
靴の中で足の指を開いたり爪先を上下させ、しきりに履き心地を確かめた。その後、ひょいと屋上に立つ。
「――さて」
吹き抜ける風に茶色い髪を靡かせながら瞑目する。瞼を持ち上げると、その奥に潜めていた褐色の瞳は淡く光を帯びる緑色へと変化していた。
「――ッ!」
刮目した緑色の視線は、通りに停めてあった車へ送られる。
するとそこだけ重力が切り取られ、重々しく宙に展開した車は金属の軋む音を上げくるり反転。
視線を右へ振るとそれは弾かれ地を抉り、歩道へ叩きつけられた。車の窓ガラスが割れ、けたたましい警報音が鳴る。
