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【S】―エス―01

第34章 夢の断片

 ◇5


 8月12日、午前9時03分。


 ミュンヘン駅からハイデルベルクを経由し、渓谷へ向かおうとする瞬矢たちに、思いもよらぬ情報が飛び込んできた。


 このミュンヘン駅を含め、現在、ハイデルベルクへの全ての交通手段は遮断されているとのこと。


 運行が不可能なことを身振り手振りで駅員は伝え、小型のテレビ画面を指し示す。


「何、これ……」


 傍らにいた茜が、駅員の指し示した画面の側に駆け寄り思わず声を上げる。


 テレビ画面から流れる午前のニュース。そこには、瓦礫の山に立ち上る黒煙、崩壊したハイデルベルクの街が上空から映し出されていた。


 昨日のこともあり、瞬矢と刹那は互いに顔を見合わせる。この時、2人は全く同じことを考えていた。


 『もしかすると咲羅がやったのではないか』と。


 どうやら、事態はあまりいい方向へと進んでいないようだ。


「どうする?」


 ――咲羅の仕業。一瞬働いたその考えになんの根拠もない。


 だが、咲羅のことも気がかりである。こんなところで長く足止めを食らっている訳にはいかなかった。


「どうにか、するしかないさ」
 

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