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【S】―エス―01

第34章 夢の断片

 
 確かにそのとおりなのだが……。


 おもむろに通りへ目をやる。その時ぐるりと迂回する車を視界に捉え、ふっとよぎった可能性。


「いい方法がある」


 瞬矢の思考を悟ってか、刹那はにこりと笑み、そして提案する。


 確かにその方法なら列車よりも多少時間はかかるが、目的地の渓谷――あるいはその付近まで行ける。


 今は手段を選んでいる訳にはいかなかった。手段があるならば、今はそれに乗るしかない。


 依然として交通機関が麻痺したままのハイデルベルクを避け、迂回し旧道を下り、ネッカー川の脇に敷かれた沿道をレンタル車でひた走る。


 午後1時54分。


 到着したのは、目的地である城を見渡すことのできる小さな街ネッカーシュタイナハ。以前に刹那ただ1人訪れたことがある街だ。


 なんの作戦もなしにいきなり突っ込むのは危険と判断した為である。


 立ち並ぶ三角屋根に白い外壁、木の磔(はり)を渡した家々が、欧州独特のそれを思わせた。


 街へ入りすぐのところに、観光客を対象とした宿泊施設がある。とりあえずそこに宿を取り、後日、計画を立てることにした。
 

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