
【S】―エス―01
第35章 綻び
――約5年前。
とある昼下がりに初めてその人物の家を訪れた。当時のことは、今も記憶に新しい。
あれは、通された居間でのこと。
「本当に、巧くいくのか?」
窓側のソファに腰を据えた彼は、同じく玄関を背に椅子へ腰かけたハロルドに問う。テーブルの上には、淹れたてのコーヒーが注がれたカップが並ぶ。
そこで交わされる会話は全て日本語。その内容は、とある計画についてだった。
その時、玄関のドアの開く音がして背後に人の気配を感じ振り返る。
「あぁ、レディ・メイ。おかえり」
玄関へと視線を送る男がそう言った視線の先には、長い黒髪を結わえた齢15、6歳くらいの少女が立っていた。
胸元には、金色の『L・M』とあしらわれたペンダントトップが光る。
『レディ・メイ』と呼ばれた彼女は真っ直ぐにちらとこちらを見やり、黒い瞳を丸くする。だがすぐさま軽く会釈だけをし、奥へ去っていった。
「子供、いたんですね」
目線を正面に戻し、男に投げかける。
しかし、親子にしてはあまり似ていない。母親似なのだろうか……。
