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【S】―エス―01

第35章 綻び

 地下にあるそこは、城内外の雰囲気とは違い、無機質な打ちっぱなしのコンクリートで四方を覆われた空間。その部屋の壁に左手で首を掴み押しつける。


「あぐ……っ!」


 いきなり酸素供給をほぼ絶たれ、頬に朱が差す。両手でハロルドの左腕を掴み、なんとか逃れようともがく。


 だが奮闘虚しく、リンの首へと加えられる左手の力が緩まることはない。


「リン、お前か? あの薬をS‐145に与えたのは?」


 距離を詰め獲物を捉えるような視線で彼女を見据え、静かに威圧的な口調で問い質(ただ)す。


 だが彼女は何も答えようとはしなかった。


「……っう、ハ……ル……」


 ただ苦悶に顔を歪ませて開いた口ぱをくつかせ、耳まで赤く染まってゆく。


 その姿にぴくりと眉を聳(そび)やかせる。


「……悪い子だ」


 左手の力をわずかに緩めたかと思うと、ぐっと顔を埋め囁く。リンの耳元に熱を持たせた息がかかる。


 口調こそ穏やかなもののそれを肯定と捉え、苛立たしさを募らせたハロルドの行動はエスカレートした。
 

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