テキストサイズ

【S】―エス―01

第35章 綻び

 唐突に、一声発した後ぴたり立ち止まり、何かを思い出したように右手の人差し指を立てて天を仰ぐ。


「この曲、なんて曲か知らない? さっきからずっと頭の中でうるさいんだ」


 突拍子もなくその場で鼻歌を口ずさみ始めた。


 いつどこで聞いたのか……。


『遠き山に、日は落ちて――』


 口ずさむ旋律と調和して、リンの脳内に歌詞が流れる。昔、『レディ・メイ』と名づけられたばかりの頃、養父が彼女に歌ってくれた曲だ。


 頭の中を過ぎ行く記憶にリンは目を細め、咲羅の投げかけた疑問に答える。


 誰もが一度は聞いたことのあるだろう、その曲は――。





「ドヴォルザーク……『新世界より』」

 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ