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【S】―エス―01

第5章 接触

 香緒里は深い溜め息をつく。


 今回の事件に深入りするなと上から念押しされたのだ。


 だが、せっかく真実に手が届くかもしれないというところで諦める訳にはいかなかった。


 何より警察本部の判断は、真実をつまびらかにするという香緒里の信念とは全く真逆なものである。


(これじゃあ、あの頃と何も変わらない)


「捜査、行ってきます」


「新田ぁ! お前、まだ親父さんのこと……」


 歩みを止めた香緒里は、込み上げてくる過去の思いを払拭するかのように一度首を振り遠くを見据え言う。


「今回の事件に私情を挟むつもりはありません。それに、父のことは関係ないですから」


 香緒里の姿は扉の向こうへと消えて行った。


     **


 午後2時を過ぎた頃、香緒里たちは瞬矢のいる事務所兼住居の建物の前まで来ていた。


 仁王立ちで太陽の光を左手で遮るように建物を見上げる香緒里のその姿は、些(いささ)か男らしくすらある。


「先輩、被疑者が若いイケメンだからって惚れちゃダメっすよ?」


 山田が冗談混じりに言う。


「大丈夫! 年下には興味ないから」
 

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