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【S】―エス―01

第37章 傀儡

 そう言って棒立ちとなり、目線だけでフードの人物をちらと見やる。すると人物は、相変わらずの淡々とした口調で答えた。


「大人しくしていればすぐに分かる」


 フードから覗く双眸をわずかに細め、不敵な笑みを漏らす。途端、首筋にチクリと刺すような痛みが走り、ただでさえ不鮮明な視界が更にぼやける。


「まさか、こうなるとは……ね」


 滑稽(こっけい)とばかりに口の端をつり上げ言葉を残すと、ぐらり、地につっ伏し視界は暗転した。



     **


 チカチカとした眩い光が視界を照らす。


 照明がついているが、恐らく地下だろう。火の気はなく、ひんやりとした空気が肌に触れ冷たい。


 少年を取り囲む白衣の大人たち。彼らは時折少年の様子を窺いながら、薬品を手に何やら話している。


 やがて1人がこちらに向き直り、少年の右腕に注射針を向ける。入っているのは、淡い紫色の薬品。


(今は8月のはず……。それにここは、あの屋敷……? それとも――)
 

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