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【S】―エス―01

第37章 傀儡

 自身の存在が、これほどまでに痛みを伴うものならば……。


 床に広がる赤、そこに転がる同じ顔の骸。青空の下、咲いた花のように笑う咲羅、倒壊した街。


 静かに羽を動かす蝶、淡い緑色の目――。


 全てが一瞬のうちによぎり、ぐにゃり、原色に染まった景色が歪む。


(咲羅……)


 ――ぼんやりとした視界に映る灰色の景色は、あの日の地下のようだった。


「ん……?」


 俯いていた顔を少し上げる。


 うつらうつらとした視線の先には、打ちっぱなしのコンクリートの壁。両膝が見えることから、どうやら椅子に腰かけているようだ。


 当然だが部屋に窓はなく、差し込む光とわずかな空気の流れから、右手には入り口があるらしい。


 目覚めて再びの拘束。手足の自由もきかず、あの頃のことを思い出したのはこのせいか……などと悠長な思考に浸っていると、通路の方から足音が聞こえ刹那は入り口へ視線を送る。


 近づく足音はぴたりと止まり、部屋の入り口に差す人影。そこには自分よりも小柄なフードの人物が立っていた。


 刹那はくすりと余裕の笑みで、その人物に向けて言った。


「そろそろ正体を見せたらどうだい?」
 

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