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【S】―エス―01

第37章 傀儡

 彼女はつかつかと眼前にまで歩み出る。


「彼が、今のS‐145にアナタたちを接触させるのは危険と判断したの」


 ぴたり立ち止まると「特にアナタはね」そう言い前屈みに顔を近づけ、くい、と顎を引く。


 片手で顎を支えられ、リンと目線がかち合う。数ヶ月ぶりに間近で見る彼女の目であった。


「やっぱり、繋がりがあったのか」


 認めたくはなかったが、リンが――彼女が裏でハロルドと繋がりを持っていることは、これまでの言動からなんとなく予想できていた。


 だが先ほどの彼女の言葉から、『認めたくない憶測』が『揺るぎない確信』へと変わったのだ。


「君は咲羅のことを“そんなふう”には呼ばなかったはず」


 少なくとも彼に名前がついてから、リンは一度も『S‐145』などと呼んだ覚えはなかった。


 だがハロルドとの繋がりも含め、何を今更と笑い、刹那の体に自らの肢体を滑らせる。ゆっくり準える手は後ろへ赴き、


「無駄よ」


 ずっと刹那が隠し持っていた携帯電話を取り上げ、表示された画面を覗きすぐさま電源を切る。


 画面が暗くなったそれを片手で床に落とすと、自らの両腕を首にゆるりと絡め、再び話を始めた。
 

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