
【S】―エス―01
第37章 傀儡
「ワタシはアナタと会う前から、ずっとあの男のものだった」
後頭部へ回された彼女の細い指が髪に触れ、耳元で囁く。
「5年前、父が殺され独りきりになったあの時から、身も心もね」
腕を絡めたまま少しだけ顔を離し「でも……」と言葉を続ける。
「初めてアナタと体を重ねたあの日、自分がまだ血の通う人間なんだ――って感じられたの」
更にリンは「アナタは父の仇のはずなのに」そう言って俯き自嘲気味に目を伏せた。
「そいつは光栄だね」
首を少し傾げ、ふっと口の端から笑みを溢す。
はっと顔を上げたリンもまたくすりと笑い、5本の指が刹那の頬から前髪を鋤くように掻きあげる。
「なら、もう一度試してみる?」
刹那の首に回されていた左腕がほどけ、ゆっくり鎖骨から丸首のシャツの上を準えてゆく。一方で彼女の鼻先が露となった額に触れ、軽く唇を重ねる。
初めのうちは軽く触れ、そして深く――。
口の端から漏れ出る息が空気中で溶け合う。
当初は、やり直せるならそれも悪くないと与えられる感覚に身を委せていたが、やがてあることに気づく。
「……そこにいるんだろう?」
