
【S】―エス―01
第37章 傀儡
リンから顔を背けた刹那の視線は、コンクリート打ちっぱなしの部屋の入り口に向けられていた。壁でわずかに影が揺れる。
「そこにいるんだろう? ……ハロルド」
息をつく合間に言葉を紡ぎ、通路がある壁の向こうへ問いかける。
同時に、こつこつと、仄かに明るい通路から部屋の入り口へと入って来るハロルドとおぼしき人影。
「また、こそこそ覗き見かい?」
ふん、と皮肉混じりの笑顔と言葉を彼に向けて放つ。
「覗き見とは失礼な。しかし、よく分かったね」
ようやく姿を現した彼は白衣を着ておらず、だが暗がりに慣れた目と通路の光から茶系のスーツであることが分かった。
「君のその視線は忘れようがないさ。それに思い出したんだ」
記憶を反芻するかの如く正面に向き直り瞑目し、少し俯く。そして顔を上げ彼を見据え、
「屋敷の実験でも隠れて見てたじゃないか」
「壁の向こうでね」更にこう続け、歩いて来るハロルドを茶色い瞳で追う。
「リン、もういい」
同時に触れていた体がするりと離れ、後退してゆく。
「時間稼ぎって訳か」
「そこにいるんだろう? ……ハロルド」
息をつく合間に言葉を紡ぎ、通路がある壁の向こうへ問いかける。
同時に、こつこつと、仄かに明るい通路から部屋の入り口へと入って来るハロルドとおぼしき人影。
「また、こそこそ覗き見かい?」
ふん、と皮肉混じりの笑顔と言葉を彼に向けて放つ。
「覗き見とは失礼な。しかし、よく分かったね」
ようやく姿を現した彼は白衣を着ておらず、だが暗がりに慣れた目と通路の光から茶系のスーツであることが分かった。
「君のその視線は忘れようがないさ。それに思い出したんだ」
記憶を反芻するかの如く正面に向き直り瞑目し、少し俯く。そして顔を上げ彼を見据え、
「屋敷の実験でも隠れて見てたじゃないか」
「壁の向こうでね」更にこう続け、歩いて来るハロルドを茶色い瞳で追う。
「リン、もういい」
同時に触れていた体がするりと離れ、後退してゆく。
「時間稼ぎって訳か」
