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【S】―エス―01

第37章 傀儡

 ふいとそっぽを向き口角をつり上げ、小さく嘲るように吐き捨てる。


「さっきの言葉も行動も、全部嘘だったのか」


 刹那の投げかけた疑問にもリンは俯き、だが決して何も答えようとはしない。靄がかかり晴れない気持ちに顔をしかめる。


 そもそも分かっていたこと。


 最も刹那の心境を晴れないものとさせたのは、ようやく知ることができた彼女の本懐――それすらも偽りのものであったのか。


 そして何より、彼女を自らの手足とさせた張本人ハロルドの存在であった。


「今の君は、なんの能力も持たないただの人間だ。すぐもとに戻るがね」


 そう言い歩みを止めた彼は、刹那の眼前に立つ。


「『ただの人間』か。有り難いね」


 普通の人間として生きること。それが刹那たちにとってどれほど得難いものだったか。


「目的は?」


「君たちに、S‐145の抑止力になってもらおうかと思ってね。不良品は廃棄しないと」


 目的こそ近からず遠からずだが、彼の考え方に賛同しかねた。


「……『嫌だ』と言ったら?」


 半身を引き、挑発的な笑みで返す。


 そんな刹那の挑発的な笑みすらハロルドは関係ないと一笑に伏せ、傍らのリンに何かを手渡した。
 

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