【S】―エス―01
第37章 傀儡
――リンの右手には拳銃。
「君は絶対に断れない」
「さぁ」と彼に前方を示し促され、リンが刹那の眉間に銃口を向ける。その目に光はなく、虚ろだ。
「……いや、君にはこっちの方が効果的かな?」
突然、何を思いついたのかリンの左後方へ歩み寄る。そして右手に銃を構えた彼女の耳元に顔を近づけ、
「リン、自分を撃て」
そう静かに囁く。
「はい」
対してリンは無感情にひとつ返事でそう応え、刹那へ向けていた銃口を自らのこめかみに押し当てた。
その行動に躊躇いの色は微塵も感じられず、まるで所有者の思うままに動かされる操り人形のようだ。
「――!」
ハロルドはリンの耳元から顔を離し、眼鏡の奧に鈍く光る底の知れない碧眼で刹那を見やると再度問う。
「さぁ、どうする?」
銃口を向けられている相手が自分なら、まだなんとかなったかもしれない。だが、彼女なら……。
刹那はハロルドをねめつけ、ぽつり答える。
「……分かった」
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