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【S】―エス―01

第37章 傀儡

 
 何気なくひっくり返し目を落とした写真の裏面。そこにペンで記されていた名前は『リヒャルド・ドルト』。


 写真と記されたその名前にどこか引っかかりを覚えながらも、そっと青年の写真を仕舞いもとの場所に戻す。


(……リヒャルド? 奴の身内か?)


 いや、綴(つづ)りが同じなのだから『リチャード』ということも考えられるだろう。


 彼の身内――そう考えれば名前が違い風貌が似ていることも全て納得いくだろう。だが、そこへふと浮かんだ新たな可能性。


 ――偽名。


 彼はドイツ人のはずである。ドイツ名であれば『リヒャルド』と名乗るのが普通。しかし『ハロルド』は英国名。


 あくまでも推測にすぎないが、もし彼が名前を偽り『ハロルド』と名乗っているならば、それはなぜであろう。


 口元に手を当てしばし黙考する。


「瞬矢、これ」


 尚も引き出しを探る茜がそう言いやおら差し出したのは、彼に宛てた一通の手紙。


 瞬矢はその手紙を茜から受け取り、内容に目を通す。そこにはこう書かれていた。
 

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