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【S】―エス―01

第5章 接触

 それに対し、頬づえをついたまま視線だけをこちらに向け彼は言う。


「刑事さん、意外とお節介だな」


 ソファの背凭れにすらりとしたその身を預け、窓の外に視線を送り続ける。


「俺はただ、あいつには余計な心配かけたくないし巻き込みたくない、そう思っただけだ。だから、何があっても今までずっと黙ってた」


 香緒里は腕組みをしたまま眉間に皺を寄せ、更にふっと左上の天井を仰ぎ見ると思いついたように言った。


「でもそれは、彼女からすれば『嘘をつかれた』ってことになるんじゃないの? 彼女はそれを望むかしら?」


「……まあな」


 その一言で香緒里は全てを察した。


 この男は、初めからこうなると分かっていた。分かっていて、あえて沈黙を貫いたのだと。


「結局、バレてたんだよな。訳の分かんねー水色の薬品を射たれたこともさ」


 体を起こすと目を伏せ、自嘲気味に吐き捨てる。


「水色の……薬品?」


 まるで、つい昨日のことを思い出すかの如く語る。


「ああ。あんな鮮明な水色の薬は見たことがない」


「あなたが本当に彼女のことを考えてるなら、病院へ行ってちゃんと検査を受けなさい」


「ま、気が向いたらな」
 

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