テキストサイズ

【S】―エス―01

第5章 接触

 まるで香緒里の魂胆を見透かしたかのように、ふっと一笑に伏すとそう応える。


「刑事さん、まさかそんなこと言う為だけにわざわざ来たってんじゃないだろ?」


 「そうね」と口元に微笑を湛え、視線を落とし頷くと続ける。


「六野が殺されたことはあなたも知ってるわよね?」


 六野の遺体が発見された時、瞬矢が現場の河川敷にいたことを香緒里は覚えていた。


「ああ。だが、何度も言うが俺じゃない。あれは『刹那』だ」


 目の前のガラステーブルに一通の手紙を投げ置く。それと同時に、ソファから立ち上がり窓際へと歩を進める。


「『刹那』?」


「俺の弟だ」


 テーブルの上へ投げ置かれた手紙を香緒里は訝(いぶか)しげに拾い内容を確認する。その中の一文に、香緒里の視線は釘づけとなった。


「10年前……【S】……」


 それはちょうど香緒里の父親が亡くなった年と重なる。偶然かもしれないが、それにしてはあまりにも――。


「10年前、何があったの!?」


 窓から差し込む太陽の光を背に受けた彼は、香緒里のいきなりの剣幕に驚き濃紺の両目を見開く。
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ