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【S】―エス―01

第5章 接触

 入り口からすぐ側の窓際の席に腰かけた茜は、真向かいに座った香緒里にさっそく用件を訊ねる。


 すると彼女は茜を見据え、真剣な表情で話を切り出す。


「『刹那』について、何か知ってる?」


 『刹那』その言葉を耳にして茜は、瞬矢にかけられた疑いは晴れたのだと頬を緩ませ答える。


「確か、瞬矢の……彼の双子の弟です」


 穏やかな口調で、彼の『双子の弟』という事実だけを伝える。


 だがようやく晴れた疑いを再びかけられないよう、10年前に死んだ――そのことについて茜は溜飲した。


「顔を見たことは?」


 黙って大きく首を横に振る。言われてみれば、その存在を示すものを茜は何ひとつとして見てはいない。


 そして、次に発せられた彼女の言葉に茜は言葉を失う。


「調べたけど、彼の身内に『刹那』なんて人物いなかった」


「……うそ」


「あなた、まだ彼を信じるつもり?」


 その言葉を耳にした途端、茜は怪訝(けげん)な表情となり、香緒里を見据え口調を強める。


「何が言いたいんです?」
 

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