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【S】―エス―01

第5章 接触

 結局、部屋のすぐ手前まで来て茜は今さらながら躊躇(ちゅうちょ)していた。


 警察では、とうの昔に死亡扱いとなった父親の捜索を引き受けてくれた。そのことが、茜の決意を確固たるものにする。


(せめて、父の一件が片づくまでは……)


 意を決し、目の前のドアを開ける。開けた視界の先には、窓際で椅子に身を預け足を投げ出す瞬矢の姿があった。


 緊張で、いつにも増して胸が高鳴るのが分かった。


 先日のこともあってか、気まずい空気が漂う。ずっと正面を見ていられなくなり、思わず視線を左下へ逸らす。


「――!」


 その際、ガラステーブルの上に無造作に放られた用紙が目に留まる。


「病院……、行ってたんだ?」


 瞬矢は椅子から立ち上がると、ガラステーブルのところまで来て用紙をひっ掴む。そして茜に背を向ける形でソファに座り答える。


「ああ。1ヶ月も経ってるからちゃんとしたことは分からないが、とりあえず数値的には異常ないみたいだ」


 あの病院嫌いな瞬矢が自ら、そう思っただけで茜は嬉しくなり俯きがちにはにかむ。
 

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