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【S】―エス―01

第5章 接触

 
『――まあまあ、照れちゃって』


「第一、花って……」


 言いかけて瞬矢の顔からすうっと血の気が引く。


「お袋、それって本当に俺だったのか? 親父は――?」


 だが瞬矢の母親は、冗談とでも言わんばかりに答える。もはや、身振り手振りが容易に想像できてしまいそうなほどだ。


『やーねぇ、母さんが瞬ちゃんを見間違えるわけないじゃない!? 父さんとも仲良く話してたわよ。まさかもう忘れちゃったの?』


「……いや、なんでもない」


 終話した瞬矢の表情が青ざめ、ずっと独り言のように「俺は知らない、なぜだ!?」などと呟いている。


 沈黙の中で瞬矢はしばらく手にした携帯電話を見つめ、やがてガラステーブルの上にそっと戻す。


 軽く握った右手で口元を隠し、あり得ないといった表情で考え込む。


 茜は瞬矢にそれとなく訊いてみた。


「いったい何があったの?」


 その問いかけに対し、口元に手をあてたまま瞬矢は答える。


「お袋が……、『珍しく俺が家に帰って来た』って。でも、俺は帰ってないし花のことだって初耳だ」


 まるで自分という存在がもう1人いるかの如く語る瞬矢を見て茜は、先刻の香緒里の言葉を思い出していた。
 

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