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【S】―エス―01

第5章 接触

 
「本当に、何も知らないの?」


「ああ」


 真っ直ぐ見据えるその表情は、到底殺人など犯せる人間の顔には見えなかった。


 今の瞬矢を信じよう。そう思い、口元にわずかな笑みを湛え茜は応える。


「私は瞬矢を信じるわ」


「ありがと」


 はにかみがちに、少し申し訳ないような表情でぽつりと呟いた。


「けど……」


 茜は目を伏せる。目線だけでちらりと瞬矢の方を覗くと、彼のきょとんとした顔が映り込む。


 口に手をあて肩をすくめ思い出し笑う。


「『瞬ちゃん』……」


 途端に瞬矢は頬を紅潮させ、


「おま……っ! 聞いてたのか?」


 誰が見ても挙動不審だ。


 「ごめん、ごめん」そう言い、瞬矢の追求をかわすかのようにひらりとソファから立ち上がる。


 瞬矢は視線を逸らし、ばつが悪そうに言った。


「えーと、なんだ。アイス買って来い」


 突然の理不尽な要求に、茜は不満をあらわにする。


「えぇっ! なんで私が!? 瞬矢自分で行きなよ」


 くるりと瞬矢を見返り、淡い紅色の頬を膨らませた。
 

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