
【S】―エス―01
第5章 接触
「うるせ! バーカ!」
ぷいっとそっぽを向く。
「なっ、バ……ッ!?」
瞬矢のあまりにも低俗かつショッキングな発言に、茜は眉をひそめ憤慨(ふんがい)するも返す言葉を失う。
だがそんな言動も、きっと精一杯の照れ隠しなのだろう。
そう思った茜は、鸚鵡(おうむ)返しに言いかけた言葉の代わり、瞬矢へひとつあっかんべをして部屋を出る。
他愛ない口論にすぎなかったが、以前のそれとは違い全て開けっ広げな心地よさを孕んだものだった。
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「まったく……」
(だいたい、バカって言った方がバカなんだから)
だが唇を尖らせぶつぶつと文句を言う茜の手には、しっかりとアイスの入ったコンビニ袋が握られていた。
ふと人気(ひとけ)のなさに気づき、急に不安な感情に陥る。
それが太陽すら覆い隠してしまうほどの、ぶ厚く重々しい曇天のせいかは分からない。
5月特有の肌寒くどこか湿っぽい風が前方から凪ぎ、掠めていった。
背後に気配を感じ振り返ると、見覚えのある黒髪の人物が1人立っているのが窺えた。
