
【S】―エス―01
第5章 接触
「瞬矢?」
てっきり瞬矢が悪ふざけをしているものと思った茜は、小首を傾げ訝る。
だが目の前で佇む彼は口角をつり上げ、にぃ……と笑う。
「東雲 茜だね?」
その声は瞬矢よりもやや高く、透明感のあるものだった。
警戒しつつも黙って頷く。すると彼は、空一面を赤く染める朝焼けのような薄紫の瞳を細めてくすりと微笑し言った。
「【あの時】以来だね」
茜には、目の前の人物が何を言っているのかさっぱり理解できなかった。
ただひとつ、思ったこと。それは――
「あなた、誰?」
残念そうに俯き加減に目を伏せ、微笑を湛えたまま再び茜を見据えた。
「『彼』に伝えて――」
綺麗な三日月形に弧を描く唇がゆっくりと言葉を紡ぎ始めた瞬間、彼を中心につむじ風が巻き起こる。
「きゃ……っ!?」
両手で庇うようにして目をつむる。
「あ……れ?」
瞬矢そっくりの人物は目の前から忽然と消え去っていたのだ。
どさり、手から滑り落ちたコンビニ袋が音をあげて地面に着地する。
地面にへたり込んだ茜は、しばらくの間ただ呆然と再び誰もいなくなった路地を見つめていた。
