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【S】―エス―01

第5章 接触

 
「ほら!」


 戻った茜は、アイスの入ったコンビニ袋を瞬矢の頬にぺしぺしと当てて渡す。


「わわっ!? 冷たっ! 悪かったって!」


 途中で落としてしまった為、容器の底の部分が若干ひしゃげていた。


 それでも満足げにアイスを頬張る瞬矢を見て、今まであった不安や恐れといった感情は薄れ、茜の心は次第に平穏を取り戻す。


 瞬矢がふと思い出したように「そういえば」と言葉を切り出す。


「さっきの電話、なんであんなに慌ててたんだ?」


 ことりと置いたアイスの容器から伝い落ちた水滴が、ガラステーブルの上でじわりと広がる。


 そして茜は瞬矢に、先ほど目の前で起きたことの顛末(てんまつ)を全て説明した。


「……刹那だ」


「でも、あの刑事さんは『瞬矢の身内に刹那って人はいない』って。それって彼の言ってたことと何か関係あるのかな?」


「あいつは、お前になんて?」


 茜は俯き小さく頷くと答える。


「彼は――」


 あの時、茜を見据え彼はこう言ったという。


『なくした過去は、見つかったかい?』


 ……そして、


『あの場所が君を待ってる』


 とも――。
 

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