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【S】―エス―01

第6章 我が目に棲む闇

 見開かれた両目は真理を捉えて放さず、淡い薄紫の薬品と瞳の色が交差する。


「先生に分かる? 本当のことを知った僕が今までどんな思いでいたか」


「ね……ねぇ、お願い刹那。やめて……」


 身動きが取れない状態で首だけを前に垂れ助けを乞う。


 途端に無表情となった刹那は右手に持っていた薬品をズボンのポケットへ仕舞い、前髪の奥に本質を隠す。


 やがて何が可笑しいのか刹那は前かがみに腹を抱え、右手で顔を覆い肩を震わせ「くく……っ」と必死に声を殺して笑う。


 そして、笑みをまじえた口調で言った。


「やめて、助けて……? あの時、同じことを言った僕に先生、あなたはなんて言った?」



『――大丈夫よ。心配ないわ』



 肩を震わせていた失笑は止み、がらりと刹那の口調が変わる。


「……先生だけだった。あの頃、僕に優しく笑いかけてくれたのは。なのに――」


 今まではどこか嘲ったような、皮肉めいた言葉を吐いていた。だが、それは一転して静かな悲しみと怒りに満ちたものとなる。


 すうっと顔の上で右手を滑らせ、指の間から覗く薄紫の瞳は射るように真理を見据える。
 

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