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【S】―エス―01

第6章 我が目に棲む闇

 蛍光灯はチカチカと点滅し、白い靄(もや)のような冷気が刹那の周りで螺旋状に渦を描き覆う。


 点滅していた蛍光灯が、次々に炸裂音をあげて砕け散る。


 淡く光を帯びた薄紫の瞳と渦巻く冷気が、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 刹那を中心に1メートル四方の物が宙に浮かぶ。そしてそれらは、彼を覆い渦巻く冷気の周りでゆらゆらと漂う。


 宙に浮いた物の中から先の尖ったガラス片を示し指を鳴らすと、くるり鋭い刃先を真理に向ける。


「さよなら」


 右手を振り下ろすと同時に、ガラス片は真理に向かってヒュン――と空を切った。


「いっ……いやああぁぁっ!」


 誰もいない研究室に、真理の断末魔にも似た叫び声が木霊する。


 透明ケージの中のマウスは、ルビーのような赤い目でただその光景を見つめていた。


 唯一の明かりだった蛍光灯は粉々に割れ、暗闇に包まれた研究室に佇む彼は呟く。


「それに、僕は『刹那』じゃない」


 しばらく現場を眺めていた刹那だったが、不可解な言葉を残し研究室を後にした。


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