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【S】―エス―01

第7章 再会の旋律

 それは幼い頃、夕方になるとどこからか流れてきたアントニン・ドヴォルザークの『新世界より』だった。


「瞬矢なら大丈夫だよ」


「!」


 聞き覚えのある声に、背筋がぞくりと凍りつく。声のした方を見ることができず、背を向けたまま訊ねた。


「『刹那』……なんでしょ? あなたいったい何が目的なの?」


 背後で刹那がくすりと笑った……ように感じた。


「今に分かるさ」


 『今に分かる』茜がその言葉の真意を理解する間もなく、矢継ぎ早に刹那は続ける。


「何(いず)れまた会おう」


 風がふわりと掠め、茜の肩ほどまでの茶色い髪を揺らす。


「待って!」


 慌てて振り返ったが、すでに刹那の姿はそこになかった。


 警察署の前で佇む茜の脳内を、あるひとつの懐かしい記憶が支配する。


 ――その日の晩、犯人逮捕のニュースが流された。男の名前は『櫻井 陸(さくらい りく)』。瞬矢と同じ21歳だ。


 警察は彼の全面自供を受け、捜査は実質終了される。これにより【S】の連続殺人事件は幕引きしたかに思われた。


 しかし――。


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