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風景画

第29章  intermezzo 今宵の月 〜新月と黒猫




月が姿を隠した夜

黒猫は

心弾ませ夜道を歩く

金の瞳はますます輝き

長い尾はしなやかに宙を舞う



闇に姿が溶けこむ日こそ

愛しい想い出に出逢う夜



黒猫はアーティスト

シルクハットに燕尾服で

街灯のスポットを浴びながら

小粋にステップを踏み踊る

口ずさむのは古いジャズ

昔の恋がよみがえる



かつて手を取り踊ったのは

銀の毛並みが美しい

蒼い瞳の優しい少女



街から街へ重ねるステージ

いつしか彼は恋心を募らせる

少女を優しく抱く夢

甘美な想いは胸の奥…



けれど

少女は突然、夜空の星になる…



彼の想いは取り残され

涙の淵に沈みゆく

踊ることはない

もう二度と



すべてを封じた彼の心に

ある日少女の声が囁きかける



ねえ、あなた

踊りましょう いつものように!



誘いのままに

彼は幻と手をとり踊る

月の見えないステージは

ふたりきりの恋の想い出



闇は一段と濃く 深く

限りない夢想の中で

黒猫は少女を抱きしめる






(了)



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