風景画
第31章 intermezzo 今宵の月 〜三日月と三毛猫
ナイフのような三日月が輝く夜
三毛猫は夢を見る…
山の頂き近くの小さな城は
深い緑に守られ
一際高い天守からは
煌めく碧い海が一望できた
三毛猫は幼い姫の腕に抱かれ
天守から見る海が
殊のほか好きだった
気紛れに運ばれてくる潮の香り
弾ける光に手を伸ばしては
絹の袂に抱きとめられた
姫と彼女は
いつも、ともにいた
けれどあの日
すべての景色は暗転した
夜の静寂を破り
突然城内に火の手があがる
打ち破られる城門
ばらばらと攻め入る
幾千もの兵たち
戦乱の魔手は容赦なく
小さな城にも襲い来る
もはやこれまで…
城主は妻を伴い
燃え上がる天守に上がる
その背を見送り泣きじゃくる姫は
重臣に手を引かれ城を出る
三毛猫は
腕の中で炎を瞳に焼き付けた
海を目指し逃れる道で
振り返れば
紅蓮の炎に浮かび上がる天守の姿
頭上には冷たく冴えた三日めの月
三毛猫は
声も出せずに立ちすくむ
姫の心を抱きしめる
遥か時を超え
刻まれた記憶は甦る
そして
三日月ごとに
三毛猫の夢を涙で濡らす
(了)