風景画
第35章 poemtory 〜その日、その瞬間…
** Boxer **
セコンドアウト…
そして
最終ラウンドのゴングが鳴る
俺は
リングの中央へ踊るように進み
塞がりかけた瞼の隙間から
相手を見つめる
…キレイな顔だ
グローブの中
拳を強く握り直し
ジャブ、ストレートと突き進む
小さなジム
継ぎだらけのサンドバッグ
擦り切れたリング
ワルに成り切れない俺を拾い
居場所を与えてくれた
初めて夢を見させてくれた
俺は負けるワケにはいかない…!
いつのまにかロープにつめられ
右から左から
浴びせられているパンチ
客席の歓声と怒号
セコンドの指示も聞こえない
顔を胸を脇腹を
容赦なく抉る痛みに
意識が遠退く
このまままた負け犬か
やっと掴んだ
チャンプへの道を閉ざすのか…
そんなこと、俺自身が許さない!
怒りと共に突き上げた右拳に
はっきりとした手応え
相手の体が倒れてゆくのが
スローモーションのように見える
長い十秒が刻まれ
まばゆいライトの中
ゴングの連打が鳴り響く
歓声、拍手、叫び…
俺の右手が
栄光へと挙げられるのを
どこか遠い景色のように
感じていた
(了)