風景画
第35章 poemtory 〜その日、その瞬間…
** Jockey **
秋の陽が降り注ぐターフ
漆黒の馬が駆けてゆく
風を切る鞍の上で
いつものように
俺はお前に話しかける
気性が荒いと聞いていたけど
お前
俺に
最初から背中を預けてくれたな
…オレも不思議だ
色付き始めた木々が
視界の端を流れてゆく
あの時から
夢を見るようになった
お前と手にする栄冠の夢
オレも
お前と駆け上る夢を見ていた
そして今ここにいる
長い、長い道のりだった…
最後の直線
俺のスパートの合図に
一瞬体を沈め
お前は弾かれた弾丸になった
怒濤のように押し寄せる
蹄の音を振り切るように
俺は全身で前へ
少しでも前へとお前を追い続ける
それに応えて躍動する馬体
そのまま
たてがみに顔を伏せるように
ゴール板を駆け抜けた
並ぶように
背後から追い込んだ影ひとつ…
闘いが終わった夕日の中
勝たせてやれなかったな…
俯く俺の額に
自分の額を摺り寄せながら
オレたちはこれからだ
と
心の声が胸に染み入る
鮮やかな残照に
凛として立つお前の横顔が
美しく…哀しかった
(了)