風景画
第51章 poemtory 〜夕陽の情景
最後の舞台へと向かう
ひとりの若い闘牛士
遠く遠く離れた故郷…
必ず戻る、と
少女の涙を拭った約束を
果たす日がやってきた
「両手いっぱいの花を
抱えて帰ろう
その細い首に真珠を飾ろう」
ひと足ごとに
ざわめきと歓声が近づく中
愛しい面影を胸に満たす
「頬を染めて
迎えてくれるだろうか
抱き上げれば
笑い声を
降らしてくれるだろうか…」
扉が開き
拍手の渦の中央で
彼は優雅にカポーテをかざす
陽は西に傾き始め
精悍な横顔を際立たせる
やがて現われる大きな黒い影…
一段と高まる熱気と興奮
鮮やかに身を翻しながら
ふと
客席に少女の幻を見る
思わず名を呼び掛けた
その刹那
彼の体は
宙に
跳ね上げられていた…
時が、とまる
遥かな空の下
祈りを捧げる少女のクロスが
手の中で震えて軋む
「泣かないで愛しい人
約束通り私は帰るのだから
笑って迎えておくれ
こんなにも私は幸せだから…」
乾いた砂の上
横たわる闘牛士を
沈む夕陽が
紅く染め上げる
(了)