風景画
第71章 intermezzo 童夢〜ミルク&ビター
北風に
ほんのり水仙の香りが漂う頃
街のはずれにその店は
灯りをともす
一日だけのショコラトリー…
白猫が
コックコートのショコラティエ
甘いカカオの匂いが満ちて
自慢のボンボンショコラを
朝から次々仕上げてゆく
けれど時折
きまぐれに姿をくらまし
テラスの陽だまりで
まるく微睡む
そのたび揺り起こす
エプロン姿の黒猫は
箱に収めたボンボンショコラを
水色の薄紙でそっと包んでは
パールホワイトのリボンを結ぶ
宛名ラベルに
優しいキスで魔法をかければ
ひとつ またひとつ
愛の言葉を携え南の窓から
ふわりふわりと飛んでゆく
やがて
夜空に月が浮かぶ頃
すべての願いは空へ放たれ
タキシードに着替えた猫ふたり
星を数えながらあの人の元へ
とびきりのひと箱を抱え
扉を叩く
『…心からの愛をこめて』
どこかに春を兆すしじまの中
小さなお伽話が紡がれる
(了)