風景画
第88章 intermezzo 童夢Ⅲ 〜星空のもと
恋しい人の面影を夜空に映し
庭先に佇む黒猫に
しゃらしゃらと
満天の星が語りかける
目を細め聞き入りながら
ふと気付けば
視界の端が
そこだけ明るい
星明かり…ではなく
花でもない
―いい庭だな
声の主にそろりと近寄れば
乳白色に煌めく猫が
片目を瞑ってみせる
―ミルクだよ、ビター
俺は君を知っている
誰を何故待っているのか、もね
怪しみながらも心捉われ
彼の碧い瞳を覗き込む
…ああ、いつか本で見た海のようだ
彼女と出かける約束をした海の色
潮騒までも聞こえるようで
あの日以来の凍った心が
ゆっくりと溶けていく
そのままに
黙りあった時がゆるりと流れ
空が明るみ始めた頃
―……ひとつ頼みがある
思い切ったようにミルクが呟く
―また逢えるよ、と
言ってみてくれないか
恥じらうように目をそらす
―俺も待ってる人がいる
待つのは、慣れてる
でも時々
消えてしまいそうな
そんな…気持ちになるから
胸を衝かれ
…きっと、また逢えるよ
小さく
けれどはっきりとビターは囁いた
言葉ひとつ
ふたりの心に勇気の火を灯す
新しい朝が訪れる
(つづく)