凍夜
第6章 浸食
まさか、あの後、静香母子が、マンションの8階から飛び下りるなんて思いもよらなかった……。
マサシはひとしきり語り終えると、私に「ごめん」と頭を下げた。
「ね?俺は犬みたいでしょう?汚ないよね?」
「そんなことないよ。マサシが決めてやったことでしょう?私、理解してるよ!」
私はマサシの手を握った。
「私達、一緒なんでしょう?……全部……。」
マサシの喉が、ごくりと鳴った。
「一緒だよ。そうだよ、全部だよ!」
マサシは私を抱き寄せた。
「ごめんね。リナ、俺本当に愛してるんだよ、リナの事。」
「苦しいくらいだよ……。」
私はマサシの腕の中、ひとときの夢を見た。
二人、一緒に手を繋ぎ、砂浜を駆けてゆく。
二人はガラスの瓶の中に、お互いの大切な物を詰めこんで、「また、ここに来るよ」と砂の下に隠した。
波は、まだ遠く、静かな位置だった。