凍夜
第7章 海溝
「お疲れさまです。社長!」
私がオフィスのドアを開けると、土屋の元気な声が飛んできた。
「警察どうでした?ユキさんのこと何かわかりました?」
土屋は紙コップを片手に私の前を横切った。
「コーヒーでいいですかね?」
「ありがとう。」
私はコートを脱ぐとハンガーにかけた。
ブラインドが上がっているせいか日射しが強く感じた。
ビルの下を走る市電の音がガタンゴトンとのどかに響き、私は窓からそのさまを見下ろした。
「電車でいらしたんですか?」
土屋が私のデスクにコーヒーを置いた。
「ありがとう。ううん。近くで降ろしてもらったの。」
私はデスクチェアに腰を下ろすとコーヒーを手に持った。
「あの男ですね?」
「そ、あの男よ。」
私はコーヒーをすすった。
土屋は髭を触りながら首をかしげてみせた。
「社長、あの男とは随分長いですが、どうするんですか、今後?」
「どうするって何が?」
私は立ち上がると土屋の肩を軽く叩き、窓にもたれて外を見た。
市電の電線にこびりついている雪の塊が風に煽られて散ってゆく。
「もう、あれから25年ですか……。奇遇にも今はユキさんの彼氏……。」
土屋は窓に額をくっつけて窓の下を覗いた。
「社長、あの男と心中でもするつもりですか?」
〈ガタンゴトン〉
また電車がやってきた。