凍夜
第7章 海溝
「心中?イヤねぇ、暗いわね。」
すぐそばの停留場に止まった電車の中から乗客達がもたもたと出てくる。
皆、足元に気をとられているせいだろう。
初雪が降った翌日は、道路のコンディションが悪い。
所々アイスバーンがあって歩くのに注意が必要だ。
ビルの谷間は、雪が溶けるのが遅いので仕方がないことだった。
「社長は、充分頑張りましたよ、そろそろ幸せみつけて下さいよ。」
土屋は煙草に火をつけた。
「ありがとう。土屋こそ、幸せみつけて欲しいわ?いつもすまないと思っているのよ。」
「ワタシは大丈夫なんですがね、充実していますから。」
土屋の吐いた煙が切れ切れに光の中をさまよった。
「ねぇ土屋?早速なんだけど、昨日のユキ指名の川原って新メンバー……。」
「あー!そうでした!夕べはうまくいったんですよね?」
向き直った反動で土屋の煙草の灰が床に落ちた。
「やー!スミマセン!」
私は屈んでティッシュで床を拭った。
慌てんぼうの土屋らしい振る舞いに私は笑いをこらえた。
「あの川原って男、何か企んでいそうなのよ。」
私はティッシュを手の中で丸めながら言った。
「ええ?どうしてですか?」