凍夜
第7章 海溝
「リナだよ。俺の大切な人。」
マサシは私の肩を抱いてみせた。
フィリピンのコは私の顔に一瞬強い視線を向けた。
「またね。」
マサシがフィリピンのコに背を向けた。
私より少し歳上くらいのコだった。
さっきの東南アジア系の男がまたマサシの肩を叩いた。
「マサシ、コンヤ、ショー、ムリカ?」
マサシは「ワンステージ。」と答えた。
「キャク、イッパイ、イルヨ、チップ、イーッパイ!」
東南アジアの男はオーバーアクションでまくし立てた。
私にはなんのことかさっぱりわからなかった。
マサシは私をトイレに連れて行った。
トイレの個室に二人で入った。
入るなりマサシは私に壁ドンした。
びっくりして私は壁に背中を押し付けた。
マサシの顔が迫ってきたと思ったらとても真剣な眼差しで私をみつめた。
私は息をするのも忘れてマサシの目をみつめていた。
「俺のことを全部見ても愛してくれる?それでも俺のことキレイだって言ってくれたら、俺はリナの全部が見たい。」
「……全部だよ!」
マサシの分厚い唇が私の唇を塞いだ。
「……。」
私はまだ知らないマサシの姿を見ることが本当は怖かった。
だから私はマサシの唇が離れた時、思わず足がすくんだ。
マサシは私の頭を撫で優しい瞳で笑うと「店の中で待っててね。」と言って一人でトイレから出て行ってしまった。
取り残された私はしばらく洋式便器に座りこんで頭を抱えこんでしまった。
《マサシの本当の姿……。恐い……。》
《でも……!やっぱり、知りたい!》