凍夜
第7章 海溝
私はしばし茫然としていた。
周りの声など耳に入って来なかった。
気がつくと私の目の前に、先程のフィリピンの少女が立っていた。
「リナ、マサシニ、イツモ、ダカレテルカ?」
少女は私の目の奥をのぞきこむようにジッとみつめた。
私は少女にみつめれたまま、まだ茫然としていた。
「ワタシワ、マサシニ、ダカレタイ、アイシテルヨ。」
その言葉で私はハッとした。
思わず膝の上で自分の拳を握りしめていた。
「リナ、イツカ、ワタシワ、マサシトイッショ、フィリピンカエリタイ。」
少女は、頬を赤らめて私の目からやっと視線を外し、ステージを眺めた。
ショーの終わったステージはライトも落ち、まるで洞穴がポッカリと口を開けているように見えた。
客たちはいつの間にか、店から消えて、他の外国人の女性たちは、めいめいにくつろぎながら談笑していた。